「怒り」

 

地下遺跡には湿った淀んだ空気が溜まっている。その中を徘徊するのは幽鬼のような、神々に嫌われたモンスターたちだ。名ばかりの親衛隊に守られて、牢獄のような一室にアゴンはいた。ここにはデクレオス、シュキオン両名の姿は無く、心を許せる友も、頼れる仲間も無い。一人だ。だが、一人でアゴンはここまでやり遂げたのだ。

計画はいくつかの軌道修正のすえに最終局面へと移行している。忌々しい英雄アキレスはあっけない最期をむかえた。デクレオスとシュキオンはついに計画に賛同してはくれなかった。それどころか敵対行動をとっている。今頃勝ったつもりでいるだろうが、だが、もう遅い。
既に賽は投げられ、矢は放たれたのだ。それがいかなる結末を迎えるかはわからない。世界は滅びないかもしれない。だが、テュポーンは間違いなく復活する。
怒り。アゴンは怒りで動いている。

俺は悔しい!

なぜ、神である我々が人間の真似事をしなくてはならないのか!
デクレオスよ!
シュキオンよ!
なぜ平気でいられる!なぜ奴等を許せる!
俺には断じて許す事が出来ない!

いや、もはや信じることが出来ない。
世界を滅ぼすテュポーンをオケアノスであった俺たちは倒した。
だがゼウスは何をした。
死闘を繰り広げた俺達を労うわけでもなく、疲れきっていた俺をだまし討ちにしたのだ。そのうえ、反抗できないように魂を三つに分断した。

ゼウスは頭がいい。悔しいが認めてやろう。魂を分割したのはいい策略だ。事実、俺達三人はオケアノスとして行動することができなくなったのだ。
デクレオスはきままな海賊稼業
シュキオンは人間の女にうつつを抜かす。
俺はケチな小悪党に成り下がってしまった。
これではオリンポスの神々に復讐戦を挑むことなどできるはずがない。

だが、違う。違うぞ。
この俺は忘れてはいない。
あの懐かしい海の安らぎとゼウスの卑劣な仕打ちを忘れはしない。
俺は世界からも見放された。
もともと神であったものが一介の市井の人間でおさまるはずない。
自暴自棄になった俺は偶然だろうが、つまらん悪事をアキレスに見つけられ放逐された。自業自得なのかもしれないが、しかしここまで貶められなければならないのか?
この世界は俺に何をしてくれるのだ?
俺は神を、この世界を信じることができない。

だから、破壊する。

俺はがむしゃらに金を集め、人を捜し、謀略と暴力の限りを尽くした。
栄光のない日々など、毎日死んでいるのと同じだ。
俺は毎日死にながら、この世界を呪う。
世界を滅ぼす。
世界を滅ぼさなくてはならない。

斥候から連絡が入った。シュキオンを含む英雄ヘラクレスの一行が到着したらしい。

出迎えなくてはならない。

英雄ヘラクレス
争いの女神エリス
オケアノスの残滓であるシュキオン
あとは運命のいたずらで不死になった記憶喪失のぼうやと男装のおじょうちゃんだ。
デクレオスもシュキオンに手を貸しているようだ。いずれ姿を現す。

いいだろう戦ってやる。

勝算は少ないが、古き神の意地を見せてやろう。たとえ敗北しても俺は目的を果たす。
テュポーンは間違いなく復活する。
過去の栄光を取り戻すことができないのなら、死ぬことができないのなら、もはや滅びるしかない。

そして俺に後悔はない。


前野司さんから頂いたアゴン小説です。テーマは「アゴンの怒り」素晴らしい小説をありがとうございましたー!

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